ボンドグラフの基礎:9
パワーの向きと因果関係[I]
エネルギー貯蔵素子としてのC素子及びI素子
C素子及びI素子の具体的な形は単ポート素子2:C素子:I素子をご覧ください。(a)~(d)図において片矢印はパワーの向きを示します。パワーはどの場合でも、C素子あるいはI素子に流れ込むとします。逆向きのパワー、すなわち片矢印の方向が逆の場合は許容しないこととします。ブロック図で考えるとパワーの向きが逆となると、e×f>0である限り、説明がつかないからです。
因果関係(causal)とはブロック図に示すように、入出力関係が明確であることを言います。(a)~(d)図まで具体的に考えることにします。ちなみに、非因果関係(a-causal)とはシステムの入出力関係が陽に与えられず、保存則(例、キルヒホッフの電流則)で記述されることを言います。
- (a)各素子のふるまいが独立な場合:
- 0接点に接続する場合
- 1接点に接続する場合
- 各素子のフローあるいはエフォートに拘束がある場合
- 0接点に接続する積分性の因果関係のC素子とI素子
- 1接点に接続する積分性の因果関係のC素子とI素子
微分性の因果関係のC素子では上の[I](a)図に示す通り、エフォートがC素子の方に進み、それに応えてフローが生じ、逆方向に進みます。フローはエフォートの微分にCを乗じて求められます。積分性の因果関係のI素子では、上の(c)図にあるように、エフォートを積分し、Iで除してフローが求められます。下図(a)は0接点に微分の因果関係にあるC素子と積分の因果関係にあるI素子を結合したボンドグラフです。(b)図にブロック図を示します。0接点ですから、接点に接続されるボンドのエフォートはすべてですから、各要素のフローは他の要素とは無関係に定まり、独立になります。全フローの合計は、
となります。
ここでの要素C表現はボンドグラフとしてあり得る表現ですが、物理モデルとしてはエフォートにCを接続していますので、電気回路としてみると次の図のようになります。これはエフォート源にCを接続していますから、エフォート源がステップ出力の場合には、無限大のフローが流れることになり、現実にはありえません。つまり、微分性の因果関係のCは現実のモデルとしては無理があるのです。
SF素子から積分性の因果関係のC素子と微分性の因果関係のI素子を1接点で接続した場合のボンドグラフを(c)図に示します。各素子のエフォートを下の式に示します。0接点に接続した場合のフローと同じように, 各素子のエフォートは各素子単独で決まります。フロー自体は全素子の結合から決まりますので、このような因果関係をインピーダンスによる因果関係と呼びます。(d)図にブロック図を示します。微分性の因果関係を有するI素子とは具体的には、どのようなものでしょうか。機械系ではフローは速度ですからその微分とは加速度に他なりません。I×加速度=力ですから、速度が強制的に規定される力を生じる関係を表します。具体的にはGS13油圧ロボットに例を挙げます。具体的な物理モデルとしてはあり得るのですが、外部から強制される関係です
各素子ごとのエフォートの式を次に示します。
0接点なのですべてのエフォートは同じ値となります。積分性因果関係のC素子のボンド、特性式、ブロック図は[I](b)図に示しました。C要素にフローが流れ込み、エフォートが接点側に戻ります。そこでストロークが付きます。(参考)。0接点に接続されているので、接点側のストロークはC要素に限られます。他の要素のエフォートは接点側とは反対方向になり、ストロークは要素側につきます。積分性の因果関係のI素子のボンド、特性式、ブロック図は[I](c)図に示しました。ストロークは要素側につきますが、これは図(c)に示すように、I要素にエフォートが加わり、積分の結果を1/Iを乗じてフローが接点に戻ります。
SFから要素Cに流れ込むフローの総量は、次のようになります。接点のエフォートは要素Cにより決まります。かつ、0接点に接続されているので、I素子、R素子のエフォートは決定され、同時にフローも決まります。しかし、C素子のエフォートを決定するフローは要素I,要素R、外部から流れ込むフローによる総合的なものです。物理モデルとしての具体例は参考図:0接点に示します。微分性の因果関係の素子を組み込んだ場合と異なり、無理がありません。
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1接点ではフローが共通です。I素子はエフォートが決まれば、フローが決まります。これにより、C素子、R素子のエフォートが決まります。しかし、I素子のエフォートは全素子の関係から定まります。(c)図にボンドグラフを(d)図にブロック図を示します。(c)図では各ボンドのエフォートとフローを示しました。C素子に流れ込むフローはですから、Cのエフォートとなります。物理モデルとしての具体例は参考図:1接点に示します。0接点に接続した場合と同様に、微分性の因果関係の素子を組み込んだ場合と異なり、無理がありません。
積分の因果関係と微分の因果関係
これまで示したように、積分の因果関係を有するC要素とI要素はいずれも物理モデルを想定することが容易です。しかし、微分の因果関係を有するI要素は強制された外部入力条件での物理モデルを想定できます。I要素及びC要素のいずれについても、加わる入力に制限を加えて可能となります。計算技術としても微分よりも積分の方が容易です。結論として、微分の因果関係は制約条件を課せば、物理モデルとしてあり得るといえます。積分の因果関係についてはそのような制約はないようです。BGSPは積分の因果関係に限られますが、20-Simは微分の因果関係を許容しているので、計算モデルとしては自由度が高まるといえそうです。
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