ボンドグラフの基礎:1

ボンドグラフはMITのPaynter教授の創案になるものです。1959年4月24日の早朝にボンドグラフのかなめである"0"ジャンクションと"1"ジャンクションのアイデアが閃き、ついに完成したとされています。教授の研究テーマは「技術システムの融合」でしたからまさにずばりの画期的なアイデアでした。

ボンドグラフの特徴はつぎのとおりです。

ポートとボンド

ボンドグラフではシステムを集中常数の要素が結合されたものとして表現します。要素とは抵抗とか慣性、インダクタンスなどの性質を有するものをいいます。要素を結合するものを線分で表し、ボンドといいます。エネルギーはボンドを伝わり、伝達するものとみなします。ボンドが要素につながる位置をポートといい、エネルギーはポートを通じて伝わるものとします。


左図においてエンジンから負荷に伝えられるパワーは
トルク[Nm]×回転角速度[rad/s]=パワー[J/s]
です。パワーはエンジンと負荷を結合するシャフトにより伝達されますが、これがボンドに相当します。電気電子回路ではボンドは電線などに相当します。ここではボンドはトルクと角速度という2変数を代表しています。
ボンドグラフの要素は慣性、インダクタンス、抵抗など特性式で記述される理想的なものとみなします。ボンドグラフはボンドによりエネルギーが伝達される要素から成る集中定数系のネットワークを構成します。ボンドそれ自身はエネルギーを伝達するだけで消費もせず、発生もしません。

ボンドグラフにおける物理量の対応

ボンドはパワーを伝送し、パワーは二つの物理量変数の掛算です。次の表はいろいろなエネルギー分野について物理量変数の対を示しています。ここで、モーメンタムはエフォートの積分であり、ディスプレースメントはフローの積分です。この表では力[N]・トルク[Nm]・電圧[V=N・m.C]・圧力[Pa=N/m^2]のように力[N]に関連する変数をエフォート[effort]とし、速度[m/s]・角速度[rad/s]・電流[A=C/s]流量[m^3/s]のような変化速度[1/s]に関連する量をフロー[flow]と呼び、このような見方を力・電圧相似といいます。これは変数の物理的次元に着目した相似といえます[1]。
これに対し、力・電流をまとめる力・電流相似とする見方もあります。これは2点間の電位差、圧力差、相対速度など2点間の差として定義される量をまとめたものを、横断変数(across variable)と呼び、ある点を通過する電流、流量、作用する力などをまとめて通過変数(through variable)と呼びます。力電流相似では、横断変数については、ループを形成する要素の電圧の代数和が零に等しいというキルヒホッフの第2法則が成立し、通過変数については1点に流れる電流の代数和が零に等しいというキルヒホッフの第1法則に相当するものが成立します[1]。このサイトでは力・電圧相似を採用します。

  電磁気系 油圧系 機械系 熱系
電気系 磁界系 非圧縮 直線運動 回転運動  
エフォート
e
電圧 磁界 圧力 トルク 温度
u[V] V[AT] P[Pa] F[N] M[Nm] T[K]
フロー

f
電流 磁束密度 流量 速度 角速度 エントロピー
流量
[A] [Wb/s] Q[m^3/s] [m/s] [rad/s] [J/K/s]
モーメンタム
p
電気
モーメンタム
  油圧
モーメンタム
運動量 角運動量  
[Vs]   P[N/m^2 s] p[Ns] L[Nms]  
ディスプレースメント
q
電荷 磁束 体積 変位 角度 エントロピー
q[C] [Wb] V[m^3] [m] [rad] S[J/K]

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