いろいろな話題:2
シミュレーションの問題点
シミュレーションとはある種の実験です。モデルは設計が達成しようとする目的に沿って必要な技術情報が組み立てられたものです。そのモデルに異なった条件で入力を入れ、必要なデータを観測します。場合によっては実際のシステムの作動条件を越える過酷な条件を設定することもできます。ここからシステムを設計し、運用する上での有益な情報を得ることが出来ます。
ここで問題が生じます。モデルは現実ではありません。ある仮定に基づいて造られたものです。データを変えてはシミュレーションを繰り返すと、あたかもモデルが現実そのものと思われ、得られたデータから現実を推定することがありえます。これは必ずしも誤りとはいえませんが、ある場合には重大な間違いを引き起こすこともあります。[1]の最初のページで須田教授は「トーマの法則」として、コンピュータはナンセンスな計算結果をどんどん出してくることがある、といっています。シミュレーションは言ってみれば、理論に基づく机上実験なのです。理論は理論であって、現実ではないことを忘れないようにしなければなりません。理論を十分吟味することなく、現実に適用して惨めな結果となった事例はおそらく無数にあることでしょう。
しかしながら、問題解決にシミュレーションが有用である理由をまとめておきましょう。なお、ここでのシミュレーションとはボンドグラフによるシミュレーションだけに限定しません。繰り返しますが、ボンドグラフによるシミュレーションは動的システムに有用なものです。
- 開発の初期ではシステムについて具体的情報が乏しいのが普通です。乏しい情報から類推してプロジェクト方針を決定するのは危険です。シミュレーションにより知見を豊富にすることができます。
- 実際に実験するのは危険な場合があります。シミュレーションにより危険限界を具体的に把握できる場合があります。
- 実際のシステムで実験するのが費用を要する場合にも、シミュレーションでは低廉なコストで繰り返しできます。
- シミュレーションでは実時間を短縮し、或いは伸長して実験できます。非常に応答が遅いシステムでは結果を得るまでに数日あるいは数ヶ月を要する場合も珍しくありません。シミュレーションによればはるかに短い時間で実験を行うことができます。その逆に観測が難しい高速の事象をみることもできます。
- システムの内部情報あるいはシステムのパラメータは観測できません。システムの外部情報から推定できるだけです。シミュレーションでは自由に変更もでき、観測もできます。
- 実条件ではさまざまな外部の妨害が入ります。シミュレーションでは観測の障害になる外部の妨害条件を排除し、システムの本来の応答がどのようなものか知ることができます。
- 実システムでは、摩擦あるいは発熱など、システムの応答に影響を及ぼす因子があります。シミュレーションではこれらを仮定したり、排除したりして影響を調べることができます。
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